ダゲール街の人々をみました。

公開日2019/12/21
鑑賞日2021/11/15

どうもヤマシンです。近所の小さいパン屋さんにハムとチーズを包んで揚げたパンがありまして、それがとても美味しいのです。こじんまりとしたお店で、あまりワイワイしておらず、僕にとってはのんびり選べてお気に入りのパン屋さんです。でもハムとチーズのやつはすぐ売り切れるので朝一で買いに行くしかありません。お客さんが他に入ってるところをあんまり見たことないし、その他のパンのラインナップは昼間でも豊富。僕の知らないハムとチーズのやつが好きな方が他にもいらっしゃるのでしょう。お店の事情であまり作れないのかもしれませんし、もしかしたらお店の方も気に入っていて、まかないのために別に置いてあるのかもしれません。小さいパン屋さんの中にも自分の知らないドラマがあるようです。地球の大きさで考えるとそのパン屋さんの大きさなんて、2LDKの部屋に落ちてる一本の髪の毛を構成しているタンパク質の複数から連なる分子を形成している原子くらいの大きさくらいしかないでしょう。そんな中にもいくつかのドラマがあるんだと考えると何かワクワクしてきます。僕にとって、そんな風に小売店の中の人たちに思いを馳せる機会をくれた映画が『ダゲール街の人々』でした。

フランスを代表するドキュメンタリー作家で巨匠アニエスバルダの代表作だそうで、約50年前の作品ですが、今見てもとても面白いのです。パリ14区のダゲール通りに暮らす人たちを防犯カメラみたいに機械的に写したり、意図的に人間が撮っていることを時々思い出させるように写したりしてまして、わかりやすい娯楽要素がほとんどなくても、ぐいぐい見てしまうんですね。普段買い物に行ってお客さんや店員さんの顔をマジマジと見てみたいと思っても、実際に見ることはありません。見たらシバかれるかもしれませんし、だいたい世の中で起きてるケンカとか事件って「何見てんねん」から始まると思っているので、ケンカが弱い僕にとって人をジロジロみないことは生き残るための生存戦略なのです。もし相手に気づかれずに人をジロジロ見れるチャンスが目の前にあれば、そそくさと掴みに行きたいものですが、そんなチャンスに出会えてしまってラッキー。

精肉店にハラミ肉を買いに来たおじいちゃんの顔とか、レジでやりとりしてるお母さんの横にいる娘さんの顔とか、胡散臭いショーをみせるマジシャンの顔とかその観客の顔とか見放題です。みんな演技なんてもちろんしてないので、無表情だったり、床見てたり、脱脂乳が脱脂乳じゃないかで悩んでたりするんですね。お店の人が今日は寒いですね〜的なこと(セリフはニュアンスです笑)をおじいちゃんに言って、「ああ、そうだね、寒いね〜」みたいなことおじいちゃんは言うんだろうなと思ったらおじいちゃんガン無視したりめちゃくちゃ面白い笑。おじいちゃんが肉買おうとしてる後ろのガラスの向こうでで変なおじさんが行ったり来たりしていて、うわなんかヤバい人写ってるやん笑笑と思ったら店に入ってきて普通に肉買うために並び出したり。ただ肉買おうかどうか、欲しい肉があるかどうかで悩んできっと行ったり来たりしてただけだったようです。スパイダーマンだったらスパイダーマンが戦ってるところで変なおじさんが映り込むわけなくて、邪魔だからと人間たちが人工的に排除しますよね。でも、本当の世界だったらもしかしたら急病の娘のために薬がどうしても必要だからとスパイダーマンとDr.オクトパスの激しい攻防をかいくぐってでも薬局を行ったり来たりすることだってありえますよね。『ダゲール街の人々』に出てくるガラス向こうの変なおじさんが普通で、スパイダーマンで普通は削除されるおじさんの方が変です。

この映画を見てると、自分の判断基準がより本質に近づいていくような気がして、とても気持ちが楽になってくるのです。いろんな小売店に関わる人たちの日常の様子を見ることで現実でも「ああ、機嫌が悪そうなあの店員さんはもしかしたら来週大学で提出するチーム課題があるのに1人全然何もしない子がいて、直接言おうかLINEで言おうか悩んでるのかもしれないな」とか「ああ、あの笑顔が素敵な店員さんは昨日彼氏にサプライズでフラッシュモブをしてもらって気まずかったけどうれしい気持ちになったのかな」とか、小売店やそうじゃないどこかでも誰か他人のことを思う時間が少し増えるように思います。店員さんへ気遣うお客さんが増えたら、店員さんももっと優しい気持ちになれるような気がします。この作品を見る人が増えれば増えるほど、幸せな小売店が増える気がしてならないので、ダゲール街の人々のポスターを小売店に貼りまくりたい気持ちを抑えて明日もハムとチーズのやつを買いに行こうと思います。

 

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満足度★★★★☆