『花様年華』(2000)を見ました。

鑑賞日2021/11/22
公開日2018/2/24
満足度★★★★★★★★☆☆

古代メソポタミア文明ハンムラビ法典にもあるように、過度なやり過ぎは人間社会を滅ぼしてしまう。
何事もほどほどにする必要がある。
カメラのどアップもそうだ。

スマホのビデオ電話が誤作動して自分の顔がどアップで映ったとき、そのキモさに耐えられず、スマホを突き放すことがある。
生卵を顕微鏡を使ってどアップにして覗く授業で、しばらく生卵が食べれなくなったことがある。
極端に何かをどアップで見てしまうと、今まで自分の良いように捉えていたものが、本来の姿を目の当たりにすることで否定され、頭が混乱してしまう。

どアップのおじさんはどうだろうか。
日常生活で目にすることはあまりない。
というか、実物でも、データでも、絶対的に数が少ない。
なぜなら皆、おじさんのどアップを求めてないからだ。
ハンニバルレクター博士、コクソンの國村隼ターミネーター2の起爆装置おじさんといった、ヤバい状態にあるおじさんのどアップはかなり見応えがあって、需要はある。
松本人志氏のDVD働くおっさん人形(もしくは劇場)はヤバい状態にあるおじさんのどアップの宝庫であるため、そういった需要を充分に満たすかもしれない。
しかし、ヤバい状態にあるおじさんは分類としては過度な類であるため、あまりに見過ぎると、刺激が強すぎて人間を滅ぼしてしまうかもしれない。
実際、レクター博士を見過ぎると夜、夢の中で追いかけ回されるハメになる。
おじさんのどアップはほどほどどころか、しない方が健全で、存在することも難しい。
どアップで嬉しいのはエロくらいなのだ。

トニー・レオンは違った。
撮影当時は40歳前後と思われる彼の、どアップで映された肌に目が奪われる。
決してきめ細やかではないし、それなりの肉食だと気づかせるほど脂も浮いている。
肌を見ていたというより、生き様を刻んだ顔に興味があったことに、後から気づいた。
彼の私生活を覗いたことはないが、確実に筋の通った男の顔つきをしている。
美系ではなく、松田優作的な、男が憧れるかっこいい男だ。
シワやシミの一つ一つが、彼の背負ってきた責任と代わって生まれてきたように思える。
映画は彼が演じるチャンの不倫話であるが、よっぽどの恋なのだろうと想像する。
物語は驚くほど薄くてシンプルなのに、機能性抜群、ウルトラライトダウンのように暖かい。
それもトニーレオンに惚れてしまっかからこそ思えることで、そういうことが物語の中にいくつもあるのだ。
かっこいい男であればおじさんでもどアップを許してしまう。
見事にカメラで切り取り、編集し、映像化してみせたウォン・カーウァイ監督を始めとする製作陣にあっぱれマークだ。

顔に刻んでいる生き様がかっこよく見える人間は、古代の法典を覆してしまう。
そんな人間を見事に収めた貴重な映画だ。
いつどこで写真を撮られるかわからない時代。
トニーレオンになれるとは1ミクロン足りとも思わないが、せめて未来、どアップで撮ってくるだろうガキたちを返り討ちにしてしまえるくらいの男になるため、日々精進していきたい。

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