それでも僕は映画を見る〜ヤマシンの映画ブログ〜

映画の感想を書くことを生き甲斐とした男のブログでございます。

『怒り』(2016)

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鑑賞日:2021/12/18
天候:晴れ
時間帯:昼
場所:家
見た映画:『怒り』(2016)/日本/ミステリー・ドラマ/監督李相日

⚠︎予備知識一切なしで見た方が楽しめると思いますので、興味がある方はぜひ、読まずにご覧いただくことをお勧めします。

印象に残ることは必須の映画だと思います。

吉田修一の小説を映画化した群像ミステリードラマ。とある住宅街で夫婦が殺害され、犯人が見つからないまま1年が経過した頃、千葉、東京、沖縄という3ヶ所に前歴不詳の男が現れる。彼らはTVやニュースで流れる犯人の特徴に類似していた…

ー以下感想ー
当時映画館で鑑賞したのだが、記憶はあてにならないもので、誰とどこで見たのか覚えていない。
僕の習性として1人で見に行っていたのはほぼ間違いないと思うけど…
でもこの映画を見たことがある、ということは鮮明に覚えている。
最近の邦画では滅多に見ない、突き出てくるような画や、豪華な俳優陣と強烈な音によるアンサンブルは体に記憶されている。
見てよかった、という記憶はないけど、見た記憶は他の作品に比べてかなりハッキリしている方である。
再びじっくり鑑賞してみて、そりゃそうだと思った。

役者陣が豪華過ぎているため、役者について感想を言うのは気が引けてくる。
役者について感想を言うとき、ただその役者のことを知っているから口にしてしまう場合が多いからだ。
つい知っているものに反応してしまう。
だからキムタクが出ている映画の感想にはキムタク演技論が飽和している。
そういうのは、意図せずに見方を決められてしまっているような気がして最近は避けたくなる。
だから僕はこの映画を見ている間、刑事に尋問を受ける無実の被疑者みたいに演技以外の部分に注目をしようとしたけど、結果自供するような形で演技にやっぱり注目してしまった。
役者陣の存在がこの映画の支えとなっているのは間違いなかったからである。

みんな子供みたいに笑って、怒って、泣く。
「怒り」というタイトルだけに、笑って、は少なかったが、大人の容姿と作法をわきまえて、子供みたく自然に見えるよう感情を解放させる。
感情を自由に操作できる能力者たちにしか見えなかった。
もちろんそんな能力者たちは世界にたくさんいるのだが、1つの日本映画で複数人一気に能力者と出会う機会は僕の経験上、滅多にないのだ。
とくに懸賞金の高いと思った能力者は、渡辺謙森山未來宮崎あおい、の3名である。
台本上、感情的になるシーンが多かったから、というのもあるかもしれない。
でも、この映画に出てくる能力者たちを一列に並べてよーいドンで笑って、怒って、泣いてもらったとしてもこの3名が勝ち残りそうな気がする。
とくに渡辺謙に至っては、肉体に年を刻み込んでいた。
シミやシワ、目の色のくすみ、疲れをのぞかせる声、筋力の低下、姿勢の劣化、それらを身につけ子供のように泣いたりするのだから、同じ人間とは思えなかった。
いやらしいが、彼らの演技だけで観客から鑑賞料金をとったって何もおかしくないと思った。

当然、このように役者へフォーカスしてしまうのは、監督や撮影スタッフに操られた結果である。
長めのクローズアップに、遥かに平均越えの音量で坂本龍一作の音を重ねていた。
練乳のかかったイチゴを目の前に出されているのと同じである。
そしてそれに食いついてマンマと罠にかかるかのように、映像に、彼らの演技に捕まった。

終盤まで、殺人犯が誰なのか、探すことにとてもドキドキした。
一方で、これだけの能力者を擁してただ犯人を探すだけの物語なのかと受け取り、もったいない気分になったりした。
ただ犯人を探すのであれば、なぜここまでして役者の演技力を用いる必要があるのか、不思議にも思った。
いまいち物語と、登場人物の感情がリンクしなかった。
登場人物が多かったので、誰の気持ちを汲み取ればいいか決めきれなかったことも影響したかもしれない。
しかし、終盤を越えると、僕の思っていたものとは異なるドラマとなり、それらの不安はそこまで気にならないことになった。
卓越した演技と、それを映し取ったカメラと、重なる音により受け取った感情の置き場が用意されていて、これだけの役者を用いてただの犯人探しの物語になってはおらず安堵して、ほんのりと感動もした。

映画館で見たときの記憶は、とにかく印象的な画が多くて、なんとなく負の雰囲気をまとった映画、というものだった。
見直すと、印象的だと思った理由は、やっぱり役者陣にあり、負の雰囲気は、頭に残った一部の残像が怖い部分であっただけでしかなく、意外と希望を描いていた映画だった。

同じ映画でも、同じように受け取るものと、異なって受け取るものがあって、なんともヘビーな映画ではあるのは変わりなかったけど、良い経験ができました。

一度見て、この映画から自分が何を感じるのか、確かめてみると面白いかもしれません。