それでも僕は映画を見る〜ヤマシンの映画ブログ〜

映画の感想を書くことを生き甲斐とした男のブログでございます。

『ブルックリン』(2016)

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鑑賞日:2021/12/19
天候:晴れ
時間帯:昼
場所:家
見た映画:『ブルックリン』(2016)/アイルランド・イギリス/恋愛・ドラマ/監督ジョン・クローリー

⚠︎予備知識一切なしで見た方が楽しめると思いますので、興味がある方はぜひ、読まずにご覧いただくことをお勧め致します。

1950年代、アイルランドからニューヨーク・ブルックリンにやってきた移民少女のドラマ。
アイルランドに住む大人しく控えめな性格の少女エイリシュは、信頼する姉の勧めでニューヨークへ移る。見慣れないものばかりで新しい生活に中々溶け込めない彼女だったが、イタリア系の青年トミーと出会ったことにより少しずつ変わっていく…

ー以下感想ー
第88回アカデミー賞で作品賞、主演女優賞、脚色賞にノミネートされた作品。
撮影は『ダラス・バイヤーズクラブ』や『わたしはロランス』のベテラン、イブ・ベランジェだ。
僕はまず、映像の美しさにずっと見惚れていました。
コントラスト控えめで、太陽の光、雲、風、雨、匂い、温度がとてもやわらかい感じで映されている。
カメラがそこに介入しているという人工的なニュアンスはほとんどなかった。

映像美は「移民少女の心境変化」にスポットライトを当てる。
移住先でホームシックになるエイリシュは、青年トミーとともにコニーアイランドへ向かう。
コニーアイランドとは、ニューヨーク・ブルックリンにあるリゾート施設だ。
水着になって海辺で楽しむ光景がなんとも言いがたいのだ。
中身を知り得ない人たちとコンクリートジャングルに囲まれ、都会で溢れてしまいそうになっていた圧迫感が解放される瞬間であり、解放されいてることがまた改めてニューヨークへ来ている事実を認識させる瞬間であり、移住とはいっても海の向こうに故郷が存在する矛盾を知る瞬間でもあった。
そのシーンを目にすることで、さまざまな感情が僕の中に出現した。
そこには僕が遠地へ向かい、大自然を目の前にしたときに想いを巡らせる実体験とまさに同じようなものがあった。
丁寧に撮影された海や空気や光が、絶妙なタイミングで挿入されていたからこそ感じるものでもあった。
アイルランドのウェクスフォード州カラクロー・ビーチを訪れるシーンでも、それは感じ取れた。
彼女の心境が映像美によって浮かんでくるような、そんな感じがして見惚れてしまった。

僕がこの作品をとても好きになってしまったのはとくに、エイリシュという少女をずっと真面目に、真摯に捉え続けた、その映画の誠実さにあったのかもしれない。
遊び心のようなものはあまり見受けられなかったのだが、とにかく一生懸命に見えた作品だった。
1950年代の再現にもそれは如実に現れていて、ロケ地、文化、ファッション、その他僕の見えないところまで及ぶ。
それはもちろんキャスティングにもうかがえた。

エイリシュを演じたのは、後に『レディ・バード』『ストーリー・オブ・マイライフ』と連続してアカデミー主演女優賞にノミネートされることになるシアーシャ・ローナン
地方から都会へ垢抜けていく変化の体現は本当にすばらしいものがあった。
彼女の顔立ちや肉体があってこそのものだった。
新地へ向かう船の上、新地で過ごすことになる女子寮での、常に何かが欠けているかのような不安定さと、何かさえハマれば一際輝くだろう原石のような魅力を感じた。

彼女の人生が創作の物語というより、あくまでも存在する1人の女性のものとして描かれていた。
僕が思う以上に彼女の選択がグレーであることは多い。
男が妄想しているような女性像は控えめで、逆に現実に沿った女性像だったことは、この映画がいかに誠実であるかの証拠だと思うのだ。

初めて出向いた遠地での不安と高揚と、恋をする少女の贅沢で心苦しい葛藤を、1950年代のアイルランドとニューヨークの映像美を額縁にして丁寧に並べたかのような、それを順に追って気づいたら一つの物語を見ていたかのような、そんなすばらしい映画でした。