それでも僕は映画を見る〜ヤマシンの映画ブログ〜

映画の感想を書くことを生き甲斐とした男のブログでございます。

『オーバー・フェンス』(2016)

f:id:movieyamashin:20211221120033p:image

 

『オーバー・フェンス』

公開:2016年9月17日

監督:山下敦弘

出演:オダギリジョー蒼井優松田翔太北村有起哉満島真之介など

概要

海炭市叙景」「そこのみにて光輝く」の原作者・佐藤泰志芥川賞候補作を、オダギリジョー蒼井優松田翔太ら豪華キャスト競演で映画化。「苦役列車」の山下敦弘監督がメガホンをとり、原作者が職業訓練校に通った自身の体験を交えてつづった小説をもとに、それぞれ苦悩を抱える孤独な男女が共に生きていこうとする姿を描き出す。妻に見限られて故郷・函館に戻った白岩は、職業訓練校に通いながら失業保険で生計を立て、訓練校とアパートを往復するだけの淡々とした毎日を送っていた。そんなある日、同じ訓練校に通う代島にキャバクラへ連れて行かれた白岩は、鳥の動きを真似する風変わりなホステス・聡と出会い、どこか危うさを抱える彼女に強く惹かれていく。

映画.comより

 

感想

函館を舞台に、妻と別れて職業訓練に通う男と、風変わりな若いホステスとの関係を描いたラブストーリー。
佐藤泰志の小説を映画化した作品で、監督は『天然コケッコー』『もらとりあむタマ子』の山下敦弘、撮影は日本で引っ張りだこ『万引き家族』の近藤龍人

好きだ、嫌いだ、という気持ちを押し殺すことなく、鳥のように生きるホステス聡はまるで社会から隔離されているかのように見えた。
何でも思いっきり表現してしまう彼女は、変わっている、という目で見られ、したいと思ったからセックスをすれば、ヤリマン、と評される。
体は自由であっても、精神的には社会から隔離されているかのように見える彼女が、函館動物園に閉じ込められた動物たちと重なる。
傍観しているだけでも、生きづらさをとても感じてしまった。

彼女の精神性は本来、動物である人間全員がもっているもの。
それをひた隠しにして生き続けなければならないと刷り込むかのような一般社会に、彼女はどうしようもない憤りを感じているように見えた。
僕が普段の生活で、常に感じていることでもあるからこそ、彼女の行動一つ一つに価値を感じてしまったのかもしれない。
彼女の生きづらさが、恋愛というフィルターを通して少しずつ濾されていくかのような、生々しい物語だった。

大方自由にできるはずの恋愛の中では、彼女は思うように自分の気持ちをコントロールできない。
普段は自分の好き嫌いに忠実でも、恋愛となると途端にわけがわからなくなる、その矛盾のようなものは誰しもが体験すること。
どうしたらいいかわからない、でも何かアクションを起こしていくしかない、その躊躇のない恋愛に立ち向かっていく彼女がとても魅力的に映った。

彼女は、蒼井優という俳優由来であるようにも思えた。
百万円と苦虫女』で見せた普通の中での生きづらさと、『花とアリス』や『フラガール』で見せた躍動する体とが上手くミックスされたかのようで、全身を使って笑顔や泣き顔を見せ、上手く自分をコントロールできない女性を上手くコントロールしていたかのように見えた彼女を両手放しで賞賛したいところ。

相手となる白岩という男は、普通とは一風変わった彼女に面食らう。
それでも約40年生きてきたと背中で語られる、それなりの人生経験をもって向き合い、戸惑いながらも彼女の魅力をすくっていくかのような誠実さには、とても心地の良いものを感じた。
演じたオダギリジョーも、蒼井優同様すばらしい。
東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』で見せた物静かさと品を持ったオダギリジョーが、人並みの喜怒哀楽を持ってして、白岩という男を確実に磨き上げていた。

函館という場所はまた、2人から生まれるドラマをより色濃くさせているようだった。
必要以上の人や物でゴチャゴチャしていて、循環速度の遅い空気に覆われている東京だったら、2人のドラマは小さくて息苦しいものに見えたような気がする。
つまりは月9みたいな大したドラマではない、ともいえるかもしれない。
暮らせる分だけの人や物と、風通しの良さと、さらに東京というゴチャゴチャした場所から離れた物理的距離のある、函館という街だからこそ2人のドラマは強調され、色を持つ。
東京から来た白岩と、函館にしばらく住んでいる聡という対比で見続けても、土地が形成する人格のようなものが描かれているようで中々に面白いのだ。

やる気があるのかないのかわからない職業訓練校や、いかにも低家賃なアパート、常連ばかりが集うスナック、地元の家族連れが休日に利用するような公園、そして、聡、白岩、その周りの人々らが、函館という街を印象付けているのか、函館という街がそれらを印象付けているのかわからないけど、どちらにせよ、場所に馴染んだ映画であったのはハッキリと伝わった。

生々しい映画であったため、やはり、明確な結末を迎えるわけはもちろんないけど、それも含めて、都合の悪いところを隠すことなく描いた地方のラブストーリーに何度も心を揺さぶられた。

満足度

80%